折れた翼(1-3世紀 ローマ)※ご売約済
材質: 青銅
サイズ: 高さ4.4 幅 9.2 cm※台座は骨董祭のインスタグラムでご紹介いただいたものから変更してあります。
勝利の女神ニケ(ウィクトリア)の翼。胴体と別の鋳造で作られているため、カケずに根元から外れたようです。骨格表現に加え、風切羽、小翼羽、大中小の雨覆、一つ一つの羽の軸と繊維(羽軸と羽弁)まで表現されており、鳥の翼を解剖学的に観察したことがわかります。しかし実際の鳥の羽の数よりは少なく、鑑賞に最適なように羽のサイズと数を選択したところに作者の表現力があるようです。翼の外側には羽の表現はありませんが、ウブなパティーナが付着しています。
ニケといえばルーヴル美術館のサモトラケの大理石像が名品ですが、同様に翼の外側には羽模様はないようです。話は逸れますが、ルーヴルの階段上に設置されたニケ像の実物は美しい展示方法だと思うのですが、オリジナルの船の台座が高い上にそれをさらに持ち上げているため、見上げる像が遠すぎて彫刻から息遣いが他の大理石像に比べて強く伝わってきません。むしろくぼんだ場所に展示されていれば、強い風に靡くドレーパリーの動きや翼の羽の向き、そして重心などのダイナミズムを鑑賞できただろうに、と少し残念に思いました。この翼の残欠を手に取るたびに、小さくとも間近で鑑賞できる喜びを噛みしめています。