NEW! 7/28に行った講座「古代文物と精神分析」、通信講座で配信開始いたしました。→工芸青花のサイトへ


私が扱う古代エジプト、メソポタミア、ギリシア、ローマなどの遺物について、それはどういうものかと問われると、しばしば回答に困ることがある。多くの場合「古美術」と答えるようにしているのだが、古く美しいものであることは確かである反面、美術品や作品と呼ぶにはいささか抵抗がある。現代で生み出される美術品と古代人の残したものが大きく異なるのは、個人ではなく集団によって作り出された文物であるという点。今までの蒐集を振り返ると、文化や地域を超えていくつかの類似点を持っているところが興味深い。フロイトやユングに代表される精神分析学はそのことに大きく注目した学問である。フロイトは研究の上で古代の文物に興味を持ち、美術的価値というよりは人間研究の資料として蒐集していた。ユングもまた、彼が定義した「元型」のうちの代表的なグレートマザー(大母)は古代の地母神や女神から導き出した。
 古代人は自立した個であるよりは集団の一員であり、その行動は非理性的、魔術的、宗教的、倫理的に神々の行動と結びついていた。そのことを集団で共有するための「神話」が存在し、信仰という形で数々の像を生み出した。神話とはこころの表明であり、そこに表されているのはこころ(ゼーレ)の本質であるとユングは述べている。人間の本能とも呼ぶべき普遍的無意識によって生み出されたイメージを投影したものたち。それはこころの形とも呼べるのかもしれない。今展では文化的背景よりも、人間の深層に眠っている無意識の発露を思わせるものに焦点を当て、人間のこころと精神の観点から古代遺物を鑑賞する手がかりとしたい。

会期|2023年7月28日(金)-8月1日(火)
   *7月28日は青花会員と御同伴者1名のみ
時間|13-20時
会場|工芸青花
   東京都新宿区横寺町31-13 一水寮101(神楽坂)
出品|毛涯達哉(神 ひと ケモノ)